カテゴリ:novels( 9 )   

【旅人の木】辻仁成   

2004年 06月 27日

a0002942_13826.jpg"旅人の木"—分厚い葉の基部に水を貯え、熱帯では渇いた旅人が喉を潤すという。僕は九つ違いで音信不通の兄を訪ねて、この街にやって来た。複数の女友達、アルバイト先の同僚…かつての憧れの的は、思いもかけぬ顔で僕を混乱させる。僕の渇きをいやす"旅人の木"はどこに。詩的なタッチで都会の漂流を描く青春小説。(「BOOK」データベースより)

辻仁成氏の小説は淡白な文章だが、ふとした一文一文が共感を呼び、なじみやすい。
両親が死亡し、主人公は十年前に家を出たきりの兄のユウジを探しを始める。物語では主人公は「ユウジの弟」として、名前すら明らかにされない。次々に明らかになってくる自分の知らない「ユウジ」の顔。混乱する主人公は、やがて自分の中の虚無感を感じとっていく。
<遺伝学的には、俺達は兄弟だとしても、魂の部分では他人なんだ。わかるか。肉体はさ、仮の宿なんだよ。…たまたま乗り合わせた舟の客なんだよ(本文抜粋)>
常に心のどこかで死がギリギリに迫ってきた行動者としての「ユウジ」と、兄を追い続ける観察者の「ユウジの弟」。消された前世の記憶を辿り、魂のレベルで繋がった人々と出会うための孤独な旅なのだ。

総合評価★★★☆☆(★5が最高)

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旅人の木
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by cafe_europa | 2004-06-27 13:09 | novels

【キャリアーズ・上下巻】パトリック・リンチ   

2004年 05月 30日

a0002942_155846.jpgインドネシア・スマトラ島で謎のウイルスが猛威!女性ジャーナリスト、ホリー・ベッカーは現地にいる双子の娘の身を案じて、アメリカ陸軍のカーメン・トラヴィス中佐はウイルス殱滅を期す探査隊を率いて、それぞれ"災厄の島"へ向かう。そして、カーメンのもとに送られてきた一通のアメリカ軍極秘文書のコピー…。幾重にも錯綜した謎が、スマトラのジャングルとアメリカの時空を越えて、結びついたとき、正体不明のウイルス"九日目の悪魔"の真実が明らかになる…。(「BOOK」データベースより)

かなりウィルスネタの小説が好きである。この系統の小説はほとんど揃っているが、その中でもリチャード・プレストンの【コブラの眼】【ホット・ゾーン】と本書は一番のお気に入りである。アンリ・ルソーを思わせる肉質的なカバーイラストもインドネシアの島の蒸し暑さを思わせ、気に入っている。
著者自体もちょっとした謎だ。訳者・高見浩氏のあとがきによれば、パトリック・リンチの名前が欧米の作家としてはめずらしくペンネームであり、どうやら2人の人間で執筆されているらしいということ。共に英国人で、長く医学ジャーナリストとして長く活動し、その間、米英両国の製薬会社と契約してウィルスの研究に従事したことがあるということ。
これに対し、これ以外の経歴が伏せられているのは本書の「謎」の根源部分に関わる仮説が、作者と縁のある実在の製薬会社と何らかの関係があり、それを慮ってのことではないかと推測している。
ウィルスの感染経路への描き方も魅力的であるが、ウィルスの正体に著者の謎と折り合わせて想像するとちょっと背筋が凍る。

【コブラの眼】自体は【ホット・ゾーン】のノン・フィクションと織り交ぜて読むと迫力が出る「恐怖」のストーリーだが、本書は文章自体にどこか華があり、ウィルスよりも「謎」に重点をおいた艶のある物語である。

総合評価★★★★★(★5が最高)

■書籍情報
キャリアーズ・上巻
キャリアーズ・下巻
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by cafe_europa | 2004-05-30 15:58 | novels

【コブラの眼・上下巻】リチャード・プレストン   

2004年 05月 18日

a0002942_03458.jpg孤独なテロリストの武器は、遺伝子操作で作られた恐るべきウイルスだった…。衝撃のベストセラー「ホット・ゾーン」から3年を経てプレストンが放つ、エボラ・ウイルスを超えた戦慄。(「MARC」データベースより)

バイオハザード・サスペンスもの。前作【ホット・ゾーン】を映画などでご存知の方もいるのではないだろうか。【ホット・ゾーン】ではエボラウィルス災禍のノンフィクションでかなり内容も深く面白かったが、今回の【コブラの眼】はフィクションではあるが、前作の現実を遥かに越えた怖さとスリリングがある。
本書で出現するコブラと呼ばれるウィルスは、自然界に存在するいくつかの遺伝子を掛け合わせ、兵器として人工的に作られた新種のウィルス。このウィルスが合衆国都市部で、誰かが人為的にバラ蒔いている怖さといったらない。
この手の小説はあまり語るとネタバレになるのでアレだが、帯のコピーに「自分を食べているぞ」とある通り、コブラウィルスに罹患した人々が自らを噛み千切り、血飛沫をあげて痙攣し、死に至る様はウィルスの見せる悪夢そのものだ。

クライマックスで追いつめられた犯人が主人公を罵倒する。
「め、雌豚、FBIの雌豚」
「お生憎さま。あたしは公衆衛生医よ」
主人公アリスの切り返し方が鮮やかで、このセリフを鮮烈にするための伏線が効いている。読者はハラハラドキドキしながら悪夢のウィルスの恐怖を味わい、彼女のセリフで胸がすくような救いを感じるだろう。

しかし最終章「宿主」では事件が解決した後、3歳の少年がある症状をあらわして病院で死亡する。このことは、バイオテロに始まるウィルスの危険はフィクションの世界だけではなく、現実の我々の生活の上にも悪夢のはじまりがありうることを暗示している。
その意味でも、本書では真の意味で「怖い」小説ではないだろうか。
できればこの作家、前作の【ホット・ゾーン】でのノンフィクションの恐怖を味わってから、じっくりと読みかかって欲しい1冊。

総合評価★★★★★(★5が最高)

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コブラの眼・上巻
コブラの眼・下巻
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by cafe_europa | 2004-05-18 00:34 | novels

【神の狩人・上下巻】グレッグ・アイルズ   

2004年 05月 08日

a0002942_1692.jpgコンピュータ・ネットワーク『EROS』の会員が次々と殺される。愛の行為、テレフォンセックス、乳房整形、近親相姦、HIV…。サイトでは五千人の男女が匿名でセックスに関するあらゆる情報を交換していた。ネット上を自在に動き回る天才殺人鬼の出現に、全米は震えあがった。’90年代最高のサイコ・スリラー巨編。(「BOOK」データベースより)

本書はどうやらインターネット・サイコキラー小説の決定版として結構評判がいいらしい。確かに今まで読んだネットが絡んだ小説はどれも出来がお粗末で、本書が絶賛されるのも頷ける。「羊たちの沈黙」を引き合いに出すのはちょっとどうかとは思うが、狂気と英知が同居する犯人の頭脳と犯行の動機の医学的リアルさが、読者を興奮させる。一分の隙もない完璧な犯罪から、頁が進み物語が佳境に入るにつれて、犯人のバランスが傾き始め、犯罪に綻びが広がる様子が面白い。

総合評価★★★☆☆(★5が最高)

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神の狩人・上巻
神の狩人・下巻
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by cafe_europa | 2004-05-08 16:09 | novels

【草原の椅子】宮本輝   

2004年 03月 14日

a0002942_2514.jpgかつて出会った古老の言葉が甦る。「あなたの瞳には、使命の星がある」。だが、五十歳を迎え、憲太郎はいまだ「天命」を知らない—。不況のただなかで苦闘する経営者。母に虐待された少年。離婚後の新たな人生を模索する女性。満たされぬ心を抱いた人間たちが、憲太郎と不思議な縁で結ばれていく。日本への絶望が募るなか、憲太郎は人生を変える旅に皆を誘う。シルクロードのタクラマカン砂漠。日本列島より広い、「生きて帰らざる」神秘の地…。心が癒される瞬間を圧巻の筆致で描き、連載時から大反響を呼んだ傑作。(「BOOK」データベースより)

50代のバツイチの主人公がある事情で 親に虐待された幼児を預かることになり 、友人の家電会社会長と 幼児の心を次第に開かせていく 。このふれあいを通して現代の人々がいかに元気になるか 、安心して生きて行けるかを模索する話 。
読んでて妙にホッとする 。しかし感性的にジェネレーションギャップを感じる。これはどうも私だけではないようだ。特にラストのタクラマカン砂漠は余計な感じがしてきてしまう。予言が云々というのも今ひとつピンとこない。
しかし、会長・富樫の言葉が印象深い。いかにして自分たちこの国の人間は、自分の存在に安心して生きられる事が大切か。言葉を変え何度も物語の中で繰り返す。彼の言葉だけでも読んでみる価値はあるかもしれない。安心することで癒される。

総合評価★★☆☆☆(★5が最高)

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草原の椅子・上巻
草原の椅子・下巻
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by cafe_europa | 2004-03-14 02:51 | novels

【仮想空間計画】ジェイムス.P.ホーガン   

2004年 03月 07日

a0002942_222950.jpg科学者ジョー・コリガンは見知らぬ場所で目を覚ました。かつては極秘プロジェクトの一環でヴァーチャル・リアリティの開発に従事し、テスト段階で神経を接合し、その後、記憶を失う。計画は過去に放棄されたはずだった。ところがある女が現れ、二人ともシミュレーションの中に取り残されたままだと言う!不可測の虚構世界から脱出の道は?リアルすぎる仮想現実に挑む、本格SF。(「BOOK」データベースより)

【星を継ぐもの】のホーガン氏である。今回はもとコンピューター関係の営業マンの描く、バーチャルリアリティ。バーチャルリアリティを扱ったSF小説はいくつかあるが、これは特に脳からの上手なアプローチがきいているようだ。こういったSFは現代小説や歴史小説に比べフィクションの部分が大きくなるから、作家の調査のレベルとセンスではとりかえしのつかない空想小説になってしらけさせるのがオチだが、ホーガンに関しては読者のいる現実と小説のフィクションとを巧みにリンクさせている素晴らしいセンスの持ち主だ。慣れない人間には飛び交う専門用語に頭を抱えさせられるかもしれないが。
他に、AIの限界をとても印象的に描いている。主人公の同僚がシュミレーションから脱出するため、交通事故で自殺する。すると人間の行動をトレースするAIのシュミレーションの世界では、時間がたつごとに自殺をする人間であふれだしてくるのだ。スピード感に溢れ、小説全体がとても生き生きとしている。

総合評価★★★★☆(★5が最高)

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仮想空間計画
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by cafe_europa | 2004-03-07 22:29 | novels

【バカラ】服部真澄   

2004年 03月 07日

a0002942_165915.jpg自らも博打で多額の借金に喘ぐ雑誌記者が探り当てた、カジノ合法化を巡る巨大な陰謀。希代の詐欺師か傑物か、日本の運命はその男の手の中に…。人間の理性を蕩かす麻薬=金の魔力を描く。(「MARC」データベースより)

話はよくできてるなと思うが・・・賭け事も好きでないせいか、 心の綻びを賭博で補うような破滅の心理が把握しづらかった。フィクションだから話のテーマ上当たり前だが、登場人物みんながおんなじ賭博を選ぶ感性がわかりずらく感情移入しにくかった。
処女作の【龍の契り】からあったことだが、理想主義というか、事件がうまくできすぎていて、それはないだろうというところも未だにチラホラある。この不自然なフィクションをなんとかフォローできて、なおかつ、話の勢いを失わなかったらいい線をいく作家になるのではないだろうか。

総合評価★☆☆☆☆(★5が最高)

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バカラ
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by cafe_europa | 2004-03-07 17:00 | novels

【クリスマスを贈ります】ウィリアム・ウォートン   

2004年 02月 08日

a0002942_161818.jpg時は第二次世界大戦。

無人の少年兵達が占拠した無人の城、そこで出会ったドイツ兵との出来事。対峙した彼らは警戒し、その日がたまたまクリスマス当日ということで、天の気まぐれのような触れ合いがあり、そして恐怖と死があった。

…「敵性情交」という言葉がドイツ人に対する無用な同情を戒める為に流行した。(中略)私達は何も情を通じた訳ではない。実際にあったことから言うと、仲間づきあいをしたのである。あの夜、私達は敵と肩を組んだと言うべきだろう(本文抜粋)

人間の行いの中で最も救われないのが同族殺し、いわゆる戦争ではないかと考えさせる内容。敵であれ相手も人間で、戦争を始めたのも偉い上の人で、戦争して人を殺し、殺される兵士達ではないということ。人としての心の弱さ、迷い、殺し殺される不安と恐怖。
その中でのクリスマスの出来事が、悲しくなる程美しい奇跡のように、物語の中で綺羅星の如く光を放っている。秀逸な作品。

総合評価★★★★★(★5個が最高)

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クリスマスを贈ります
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by cafe_europa | 2004-02-08 17:26 | novels

【ジュラシック・パーク 上下巻】マイケル・クライトン   

2004年 02月 08日

a0002942_162511.jpgあるアミューズメント・パークがコスタリカのひとつの島で極秘裏に建設が進められていた。化石や琥珀から採取した遺伝子から採取された有史以前、太古の生物を蘇らせた恐竜のパーク。オープンを控え、顧問団が視察の為に島に向かうが・・・

映画よりも格段に面白い。なんといっても映像を感じさせる書き方である。作者が医学畑であるだけあって専門用語が多いのがちょっと頭痛のタネだが、生態も大して分かっていない太古の生命相手に徹底的に調べ、太古を知らない現代人がリアルさを感じるような、うまいフィクションを駆使している。読んでいる内に、島の蒸し暑さや恐竜の匂いまで感じられそうである。そして物語のスピード感、緊張のアップ、ダウンが非常にうまい。一気にラストまで勢いで読み切ってしまう作品。

総合評価★★★★☆(★5個が最高)

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ジュラシック・パーク上巻
ジュラシック・パーク下巻
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by cafe_europa | 2004-02-08 17:18 | novels