【妖精王の月】O.R.メリング   

2004年 04月 04日

a0002942_0528.jpgそなたの答えがノーでも、彼女の答えはイエスだ。わたしは〈人質の墳墓〉から花嫁を連れていく。フィンダファーを寝袋もろともさらいあげると、妖精王は塚山から去った。タラの丘の〈人質の墳墓〉でキャンプした夜、別の世界にあこがれるいとこ、フィンダファーが妖精王にさらわれる。翌朝からグウェンのいとこを連れもどす旅がはじまる。妖精たちとの絶妙な出会いに助けられながら。だがケルトのフェアリーランドは、グウェンにとっても魅力ある世界だった。カナダの青少年がその年、一番おもしろかった本を選ぶルース・シュワッツ賞の1994年度受賞作。(「BOOK」データベースより)

16歳になるいとこ同士の二人の少女の夏休みは、ファンタジーを探しにいく旅行の予定だった。不思議な導きでタラの丘の<人質の墳墓>で夜を明かす。少女の一人は妖精王の花嫁として連れ去られ、残されたもう一人の少女はアイルランドを舞台に攫われたいとこを取り戻す旅に出る。
読む前から翻訳がとてもいいと評判は聞いていた。ケルト神話の予備知識がほとんどない読者でもストレスを感じさせずに物語へと入って行ける自然さだ。話の構成自体は古典的で、むしろ基本を押さえつつ物語の端々に見え隠れする気配りの繊細さに、メリング独特のオリジナリティーと充実感がある。
この手のファンタジー児童書ではめずらしく、主人公は少女である。そして物語は少女の視点で展開し、恋も女の子特有のロマンチックさで語られている。自分は太めで、男の子ウケする振る舞いもできないと思い込んでいた少女は、恋に落ちることであるがままの自分に目覚め成長していくが、この年頃特有の劇的さを生き生きと描いている。
メリングの物語では妖精の存在が現実の世界の上に重ねて置かれ、我々の生活の隙間にじつに自然に溶け込んでいる。物語に出てくる地名も全て現実の地図と照合するというから、アイルランドへゆけば自分ももしかすると妖精達に出会えるかもしれないとつい思ってしまう。この物語の魅力は舞台に描かれているケルト神話を生み出したアイルランドの土地柄の描き方もあるだろう。古典の著名なファンタジーといえば「アーサー王物語」だが、これもケルト神話を題材に書かれていることを思えば、ファンタジーを生み出す土壌としてアイルランドは今も在り続けているのだろうか。読み終わった後も、この国にはどこか生活の隙間で妖精が消えては現れる、そんな余韻が残る作品である。

総合評価★★★★★(★5が最高)

■書籍情報
妖精王の月

■参考
アイリッシュケルトの伝説
ケルトの文学
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by cafe_europa | 2004-04-04 00:51 | Fantsy

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