【月の森に、カミよ眠れ】上橋菜穂子   

2004年 06月 20日

a0002942_223152.jpg月の森の蛇神を愛し一生を森で送ったホウズキノヒメ。その息子である蛇神のタヤタに愛されながらも神との契りを素直に受け入れられない娘キシメ。神と人、自然と文明との関わり合いを描く。91年刊の再刊(「MARC」データベースより)

「守り人」シリーズで知られる上橋菜穂子氏の初期の作品。
古代日本を舞台に大和朝廷の力が九州の南にも及び、縄文文化がやがて歴史のうねりに飲み込まれて行く様を大蛇神と巫女との婚礼を題材に、色濃く描かれている。モチーフとされる豊後大神氏の出自伝説の「あかぎれタヤタ」伝説は、多弥太とも大太とも表記され「平家物語」や「大神氏系図」にも取り上げられており、数ある大蛇伝説の中でも有名なものだろう。
夜な夜な娘の元へやってくる不思議な夫。やがて懐妊した娘はやって来るときは姿が見え、帰る時には姿が見えない夫の正体を探ろうと夫の襟に緒環を通した針を刺し、夫が帰った後を追って行く。針は嫗岳(祖母山)の洞窟で苦しむ大蛇の喉に刺さっていた。やがて大蛇は息を引き取り、娘はやがて大蛇の子を出産する。(あかぎれタヤタ伝説)

本書ではタヤタ伝説を元に、太古の自然や古きもの、神聖なものが時代に押し流され、人々との繋がりを断ち切る様を美しく描いている。人が決して触れてはならない禁断の地「かなめの沼」の場面が印象的だ。
<夜の闇よりもなお暗く、はてしない闇。それでいて、その闇の中には数知れぬ光の渦が、ぼうっとホタル火色に脈うちながら、らせんになってまわっているのです。(本文抜粋)>
この美しい生命の螺旋を引き裂く冷たい「鉄」。物語の始まりから終わりまで、常に感じる喪失感が切なく哀しい。

総合評価★★★☆☆(★5が最高)

■参考
九州の山と伝説
平気物語と惟栄

■書籍情報
月の森に、カミよ眠れ
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by cafe_europa | 2004-06-20 22:33 | Children's books

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